真言宗別格本山K山S寺は、日中の参拝客ばかりでなく
夜お泊りの宿泊客で結構賑わっていた。
一週間の山篭りのため投宿した私は、翌日見覚えのある若い
会社経営者の引率する団体客と出会った。
その団体客は一泊の予定で研修に来ていた、当時の住職は
近隣に名和尚として知られた高名な住職だった。
若い二代目経営者は、地元で名の通った土木会社の御曹司
私は以前から知己を得ていた相手だったのである。
気性のさっぱりとした二代目はその数年後事故で他界する。
跡取り息子を失った父親は、落胆、悲痛の身に鞭打って政界に
打って出た、名町長として後世に名を残す。
ある時、町長はテレビの歌番組で脚光を浴びる三笠優子を
相手に対談に臨んでいた。
その時、彼女が唄ったのが 夫婦舟
浪曲出身の三笠の喉は、荒ぶる岬の濱風に鍛えられて咽んだ!
一泊終えた土木会社の二代目は「1週間がんばって下さい!」
私への励ましの言葉を残して山を下りた。
これが好漢二代目を眼にした最後になろうとは !
私は知る由もなかった。
以前、町長になる前に一泊させてもらったご縁を私は後生
大事にしている。
「Sさん身内の結婚式ではいつも私は 三笠優子の 夫婦舟を
唄います、良い歌ですものね!」
真言宗別格本山K山S寺での 二代目と、知人女性の言葉が
脳裏から離れられない。
奇しくもこの夫婦舟は、
少し前に紹介した雨酒場の作曲家:聖川湧先生の曲である。