随分昔の話である
私が二十歳で5か月間入院したことがある
市内で一二を争う総合病院
当時としては沢山の看護婦さんたちがいた
若い男の入院患者は僅かで噂を立てられた
中学校を卒業したばかりの准看護学生から
新婚さんや年配の婦長さんまで賑やかだった
若い看護婦グル-プの17歳のリ-ダ格に
山間の町から出て来たSちゃんという気立ての
やさしい看護婦さんがいた
私と廊下で出会うと顔を赤らめる娘だった
退院した私の青春は波乱にとんだものになる
そして水商売に足を踏み入れるのである
その当時、家業を手伝っていたAという後輩
がいた
ある時「S-君 ! 」 と私に胸の内を話し出した
モテ男の部類で付き合う女性にしてみれば
ライバルの出現にやきもきさせられる男だった
「何 ?」告白を聞いて私は語気を強めた
現在進行形の女性が2人はいる
当時の私の周りは武道仲間ばかりで女性の敵は
肌に合わない 仲の良い同級生の 隣近所の軟派
同級生に免じて可愛がっていたのである
よりによってコヤツの毒牙にかかっていたのは
あのSちゃんだったのである
女性同士を調整できる男ではない Sちゃんの
悲しみが目に見えるようだった
退院したことで彼女との接点は途絶えた
私が結婚して間もなく
市内の鮮魚店の社長、この方は私の師匠の空手の
先輩、男気を備えた硬派の人、後に猟銃自殺する
そして同年輩で男を売ったスナックのマスタ-2人
タクシーで松山の高級クラブへ向かったのである
松山で有名な高級クラブ、広い店内は多数の客で
あふれていた
私達の席に3-4名の美女が席に着いた
目もくらむ美形たち
どのくらい経っただろうか「Sさん! 」と呼ぶ声が
する
右側に腰を下ろした女性だった まだ気が付かない
「S子です ! 」その美人は はにかみ乍ら微笑んだ
さすがの私も気が付いた
「S子ちゃん !」入院から8年が経過していた
後輩から以前別れの顛末は聞いていた
S子ちゃんの苦悩は伝わっていたのである
傷心を夜の世界に求めた女心が切なかった
「あの野郎 !」
あれ以来、彼女と会うことはなかった
どうしているのやら
渥美二郎の 他人酒を聴くたびに
遠藤 実 演歌の世界に引き込まれる
失恋の時 手助けできなかった 私だった
S子ちゃん !
どうか良い人に巡り合っていてほしい
幸せな家庭であってほしい、
他人酒は悲しい女の物語 S子の歌 (詩)
ハッピ-エンドのS子でありますように。