こいさん、大阪のこいさん、京都のこいさん、そして東京のこいさん、
フランク・永井の甘い低音の歌声は、田舎の青年の心に灯をともした。
少年の日に見た初恋と憧れに、胸の高鳴りは止まらなかった、
友が大阪に発ち、友が京都で板さんになった、東京はライバルが住む街、
二十歳の青春と、はたちの詩集に目を奪われた、
行って来い、逢って来い、友の声が背中を押した、東海道本線の旅は
青年の心を揺らした。
東京は憧れ、人間が埋没する怖い街、されど幸せを夢見る街でも在った。
遠い日の思い出に、ふっと記憶を呼び覚ます、あれは 二十歳を少し
過ぎた頃、東京にオリンピックが招致されて日本中が沸きかえっていた。
青年は田舎に糧を得て、東京を仰ぎ見ていた。
東京へ行きたいな !
アジス・アベベがマラソンで優勝し、柔道の神永がヘ-シンクに敗れた。
青年は日本柔道の敗北に泣いた、猪熊が勝って優勝したのに、それでも
神永の敗北に肩を震わせて泣いた。
辛い場面だった・・・
テレビから フランク永井の ♪ こいさんのラブ・コール が流れてきた、
窓の外に、軒下にツバメが飛んで来た、その気なげな姿に、我を取り戻して
いた。
♪ さいなら幸せの町 こいさん こいさん
女であること ああ夢みる
♪ こいさんのラブ・コール フランク永井