福田こうへいの ♪ 南部蝉しぐれ ♪ 南部牛追い唄 を聴くと
私の前から永遠に姿を消したふたりの男の面影が浮かんで来る。
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「兄さん!」 店のドアが開いて嫌味のない男の笑顔が覗いた、
左三軒隣の建具職人のサブだった。
夕闇が辺りを覆い、隣近所から夕餉の匂いが立ち昇っていた。
「どうした?」 「後から Sちゃんと来るよ・・・」
Sちゃんとは右二軒隣のT洋軒の主人Sちゃんのことである、
私達3人は隣組三兄弟、私が一番年上でサブが真ん中、Sちゃん
が一番下だった。
サブは腕の良い建具・家具職人、独立開業をそこに控えていた、
Sちゃんは、本当は腰の据わった男肌、だが商売人らしく表面は
穏やかな調整型の男だった。
サブは職人肌の負けず嫌い控えめだが芯の強さは天下一品だった。
そんな男の友情がK町の夕日を彩っていた。
その夜は、比較的 客足もまばらで店は空いていた、
カウンタ-の二人の前には、K酒造のK亀の熱燗が数本立っていた。
そこでサブが一節唸ったのである・・・
彼は詩吟をこよなく愛して師範の免許を持っていた、渋い泣き節が
店内に朗々と鳴り響いた。
その後の演歌が何だったか、一緒に酔ってしまった私は思い出せない、
しかし、心の底に訴えるサブの演歌であったことは確かである、
3人は、肩を叩いて声をあげた、男の涙がカウンタ-を濡らした。
平成27年10月 現在
男三人組は、私を除いてこの世にいない、サブ、 阪神大震災の年に没す、
K、2年前東京にて死去、職場で人望を集め責任ある地位に上り詰めた。
こういう私は、ふたりの家族 妻子の安泰を祈る毎日である。
♪ 南部牛追い唄 (唄:福田こうへい) ( 亡き二人に捧げる。)
「ひとりぽっちになってしまった、遣り残したことやり終えたら
そちらに行くからな、又3人で飲もう・・・ !?」