私が24歳の頃の話である、私には数人無二の友がいた、
その内でも特に高校の同級生のSとは固い絆で結ばれていた、
ウマが合うというのか、以心伝心顔を見るだけで心が読めた。
そのSが心底惚れる女性が現れた、
私の近所の幼友達で、物静かな2級下のCという娘だった。
私は、ある時、彼の気持ちをCに伝えた・・・
いい奴だから付き合ってはどうかと、彼女は頬を赤らめて俯いた。
私は若すぎた、私に縋っていたSの切ない気持ちを深く考えること
が出来なかった、
その頃の彼女には多くの縁談が舞い込んでいた、
そのため、彼女はSの話を優先的に捉えることが出来なかったので
ある。
Sの真剣な想いを理解するには彼女の心は純粋過ぎて無知だった。
親兄弟の進める同時進行の縁談に傾いて行くのである。
婚約がととのった、結婚が決まったのである。
ああ! 無常な現実を私とSは知らされた・・・
Sの苦悩が始まったが、私の前ではけっして涙は見せなかった。
私はSから有るものを頼まれた、
辛い心を隠して買い求めた彼女への結婚祝いの品だった。
結婚式当日のY市九州行きフェリ-乗り場、
その新婚旅行の見送りの一団の中にSと私は立っていた。
Sは、感情を押し殺して彼女の姿を追っていた、その目には
うっすらと滲むものがあった。
私はあえて視線を外していた、胸の中で泣いている友を見るのは
忍び難かった、(ごめんな、許してくれよ) 叶えてやれなかった非を
心の中で詫びていた。
テ-プが、花吹雪が、岸壁に舞って海の白波に落ちていった・・・
我々、ふたりのその後の行動を、私はどうしても思い出すことが
出来ない、
美空ひばりの ♪ 哀愁出船 を聴く度に、なぜか、あの友の
Sの姿が思い出されてならない。
男たちの 哀愁出船
♪ 遠く別れて 泣くことよりも
いっそ死にたい この恋と
うしろ髪ひく 哀愁出船
涙かみしめ ゆく潮路
その後、Sは・・・
同郷の同級生と恋に落ちて、結婚した。
現在、故郷で人格者、指導者として名を成している。
S・・・よ ! ごめんな !?