ある年の8月のお盆月、
ひっそりと父母のお墓参りを済ませた
男は
ふるさとを捨てた・・・
男の名前は、真一
真一の父は底引き漁業のトロ-ル船の漁船員を
していたが、
ある時の航海で不慮の事故にあって死亡した、
一統二隻の船が網を引き上げる最中に、ピ-ンと
張ったワイヤ-が切れて、父を直撃したのである。
即死だった。
突然の不幸は、真一と母の生活を苦しめた、
一人っ子の真一と病気がちで身体の弱い母は夜毎
泣き崩れた。
食堂のまかない仕事、夜の針仕事、母は女手ひとつで
真一を育て上げた。
中学を卒業した真一は印刷会社に勤めながら地元の
定時制高校に通った、
真一1年の冬、風邪が元で薄幸の母は父の元へ旅立った。
真一は、歯を食いしばって定時制高校を卒業した、
真一23歳の春、印刷会社社長の慰留を断って退社した。
そして、その年の8月、菩提寺住職により両親への法要を
済ませて、長年住み慣れた借家を後にした。
眼下に見下ろす何時もの海は、
午後の太陽が眩しく降り注いでいた、大島が静かに映える、
借家と近所の家並みを振り返る真一の目に涙が溢れた。
真一がいつも口ずさんだ歌、
徳久広司の
♪ 北へ帰ろう 真一の脳裏に浮かんだ、
♪ 北へ帰ろう 思い出抱いて
北へ帰ろう 星降る夜に
愛しき人よ 別れても
心はひとつ 離れまい ♪
真一は、誰にも行き先を言わなかった。
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故郷の父母の墓に額ずく真一の姿があった、真一61才
在る北国から、妻と子供を伴って帰郷した真一の姿だった。
♪ 北へ帰ろう (徳久広司)
唄 cover ねちょ (哀愁のコブシ回しを聴いてください)