冷たい雨が降っている、
雨にぬれるもみあげが辛いのよと震えている、
側を通る男達、誰一人振り向く者はいない。
薄情な通り雨、その女に目を向ける男のいない
世の中ってどうなのよ ?
こんなところにセクハラの弊害があると気の
つく者はいない。
勝気なその女性は、男達を顎で使っていたのに
上司を間違えたばかりに坂道を転がりだした。
ごめんなさいの言えぬその後ろ姿に男達の罵声が
飛んだ。
こんな時に、昔の男達だったら「もうよそう !
もういいよ !」と合いの手を入れたものだ。
「薄情だな ! 男も 女も ?」
そんな情景を私の友が見ていた「可哀想に !」
それから少しして 駅裏の小さな屋台に女の姿が
有った、震える手を熱燗のグラスで温めていた。
その目から涙が糸を引いて落ちた、
「辛いな ! 田舎に帰りたいなア !」
どんな理由が有るか知れないが、男の値打ちが
下がったものだ、一人ぐらい肩を支える男が
居てもいいものを ?
そしてその街から女の姿が消えた・・・
故郷の港町にもその姿は、 ない !
季節は春・・・潮騒があの日を思い出す・・・
杉木立に囲まれた小高い丘の上に、奢侈な白い
病院が在った、○○クリニック医院。
虚ろ気に遠くを眺める女がひとり、やつれた
頬にやや紅が差している。
男達は挽歌が近寄っていることを知る由もない、
「そこまでしなくても」 女の涙が切ない。 !?