雨混じりの風が窓ガラスを叩く、遠雷の音が段々と狭まってきた、
ピカッ!稲光が闇をつん裂き、雷が天上で轟く、あの娘が生きて
いたなら震える身体で泣いたことだろう ? 「柴犬まるちゃん」
遅い風呂を出て書斎の本棚に目をやった、薄くて古い小紙が3冊、
何気なく手元にとって見た、
昭和56年9月15日発行
季刊 作詞・作曲研究誌
鐘 ひびき
1981・秋季号
松山で医療、介護施設、教育施設その他多種多様な事業を展開している
A社長の音頭で結成された作詞・作曲の研究会だった、若い頃より故郷で
先代社長から可愛がられていた関係で声を掛けてもらい参加した。
作詞の部 11.冬子 ふゆ こ たちばな かおる
♪ かえらぬ夢よ まぼろしよ
何故に今宵も 又 せめる
一度限りの あのぬくもりが
男心を まよわせる
ああ! 冬子
たしか、作曲の部の 〇〇先生に曲をつけてもらったはずである ?
まぼろしの歌謡曲 ? 青春のひとこま、追憶に恥らう恋唄だった。
いつのまにか雨が止み 雷が遠くに立ち去った、虫の音が耳に聞こゆる。
あの時は生活に追われて日々悶々としていた、福音寺の高架の下を通る
電車の音が我が身を責めて泣かせた、男 三十少し、歯軋りした晩秋を
迎えていた。
遠雷は、アスファルトの路面を黒光りさせて走り去った・・・
青春は、男の胸を騒がせて冬に向っていた、坊ちゃんの街は空しかった。
冬子のブルース 増位山太志郎