ぽかぽか陽気の日曜日
昨日までの寒さがまるで嘘のような
暖かい陽射しが降り注いでいる
何処かで見たような 感じたような
不思議な錯覚に陥っていた
・・・・・
昭和〇〇年の冬
その日は特に底冷えのする寒気が
町全体を覆っていた
さらに夜半から降り始めた雪が
次第に路面を埋め 白一色の世界を
形作っていた
学生や勤め人たちの乗るバスの窓は
乗客の吐く息で白く濁り中は見えない
男は白波の立つ雪景色の岸壁に立って居た
その時彼は、不思議な自然現象を見る
空の一点から青空が顔を出したのである
眩いばかりの太陽の光が
ここぞとばかりにさっと差し込んできた
それは一条の光の束
その中を舞い落ちる雪の結晶が
きらきらと輝いて
花びらのように海面に落ちていった
これは・・・
得も言えぬ幻想の世界に彼は漂っていた
メルヘンの舞台 ファンタジ-の世界
ほんの僅かな時間・・・
光の束は その陽射しを惜しむように止めた
向こう岸の〇〇山が白い白粉に包まれている
その裾野に並ぶ家々が寒さに静まり返っていた
ボ~ッ! 弱々しく喘ぐように沿岸船の霧笛が
耳に届いてきた
はるか沖合から 白波を蹴立てた小さな船影が
彼の視野に入った
待ち焦がれた希望の光が近づいて来たのである
・・・・・
不思議な錯覚は
・・・・・ 数十年前の現実
過去と現在そして未来を結ぶ夢の架け橋
暖かな陽射しはあの日の雪景色を思い出していた
あの日 キラキラと雪の妖精が空から舞い降りて
我が青春の1ペ-ジを刻んだ
そして今
太陽の光の粒が日ごろの疲れを取り除くように
顔面に降り注ぐ
安住の地を得た男に 後悔はない
冒険に見舞われる荒れた航海も ないだろう?
山里の秋は豊かな彩を見せ
青く静まるダムの湖畔は 紅葉の季節を迎える
陽射しの中で 日本の四季の 平和を味わっている