木枯らしの舞う港町に一組のカップルが肩を寄せて
歩いていく、男の横顔には見覚えがあった。
その時代、その町で売り出し中のT兄の若い衆M、
女はその町では見かけない二十歳前の水商売風の
垢抜けた女だった。
まるで映画に出て来るカップルのような二人に、
すれ違う人は振り向いて羨望の眼差しを送った。
私もその内のひとりだったが、妙に引っかかった ?
当時、T兄はスナック喫茶やその他事業を展開して
羽振りが良く、数名の若い者を抱えていた。
私のアパ-トの居そろうYは腕自慢のボクサ-
ジムとのある事情でふるさとに一時帰郷していた。
夜の町でバッティングしていたYと若い衆だったが
その後Yは、時々若い衆から接待を受けていた。
丁重なもてなしを見ると余程鉄拳が利いたようである。
その上席に、かのMがいた、
私が懇意にしている船員にYaという無口な男が居る
彼の幼友達がMで、Yaの取り成しで彼Mと知り合った。
いい男だった、自慢するでもなく控えめな男伊達だった、
私はMちゃんと呼んで親しく話し合った。
ところが、彼女の姿が忽然とその町から居なくなった、
時は港町に花火があがるお盆月、彼に聞くのは止めた、
男女の仲はそっとしてこそ思いやり、
その町に似合わないエキゾチックな女性は都会へ向かった。
私達が忘れかけた頃、テレビに映える美人歌手が居た・・・
♪ 哀愁海峡 という歌が茶の間に流れてきた。
その顔を見て私は驚いた ? 多分人違いだと思うが ?
Mが連れ歩いた女性と瓜二つだった。
数十年経った今に至るも、Mに聞いた事はない、
他人の空似、そのように思うことにしている。
その町には過ぎた女性だった、もったいない綺麗どころ、
男女の仲は、摩訶不思議 ?
扇 ひろ子 彼女を見ると昔の情景が浮かんでくる、
あの頃は別府航路のフェリ-が豊予海峡を渡り始めた頃、
物悲しいドラの音が岸壁を濡らした、出会いと別れの
桟橋、花束が海に浮かんで 別れを惜しんだ。
哀愁海峡
作詞 西沢 爽
作曲 遠藤 実
♪ 哀愁海峡 扇 ひろ子