雑談

新川に散った乙女の恋  酒場川

男を思う女心ほど愛しくて切ないものはない、
ある年の11月も早中旬にさし掛かっていた、
夕方6時頃外に出て見ると霧状の小雨が降っていた。

その日は土曜日、神社の下に在る居酒屋杉の子は
忙しい時を迎えていた、何気なく右手に視線を這わすと
人影が動くのが見えた。

辺りは既に暗くなって街灯が雨を淋しく照らしていた、
何かな? 誰かな?  客商売だけにじろじろ見る訳には
行かないがそれでも気になって目を凝らした。

その時、私に分からないように街灯の明かりの下で傘を
そっと開いて身体を隠した女の姿が見えた、濡れるまま
に立っていたのである。

店のなじみ客F子ちゃん、母ひとり娘ひとりの母子家庭、
母の勤務の関係で淋しい環境に育った純真な乙女だった。

ひと待ち顔に立っていた、私は察しがついていた、
彼女には惚れた男がいる、直ぐ近くに住んでいるA君 !

皮肉なことに依りによって彼女はモテ男に惚れてしまった、
為さぬ愛、叶わぬ恋の泥沼に足を踏み入れてしまった。

結末は、また女の涙を見ることになる、
店から南へ200m、東から西へ比較的川幅の広い川面が
暗い水面を覗かせていた、市民は愛着を込めて新川と呼んだ。

夜の蝶のオネエさん達の涙を写して月日を数える新川は
船村演歌の酒場川に似通っている、その裏手にみすぼらしい
安アパ-トが女達の悲しみを包み込んでいた。

F子の大粒の涙を見る日が其処に来ていた、
失恋の辛さは周囲の者まで心を暗く 切なくさせた。

ちあきなおみ 酒場川 こやすなほみ

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