レイ・チャールスの♪ 愛さずにはいられない を聴くと様々な恋人達の
場面を思い出す。
港町のフェリ-乗り場には数組の新婚旅行のカップルが沢山の人々に
見送られて頬を染めていた。
波止場では両親が控えめに、親友達は雄叫びをあげて見送った。
紙ふぶきが舞い、歓声が上がった。
私の横に神妙な顔で今にも泣きそうな友が立ちすくんでいた、
死ぬほど好きな女性は別の男と腕を組んで船上で見送りを受けていた。
純愛は実らなかった、少しの臆病が彼の手から幸せを奪ったのである。
船は海面を滑るように岸壁を離れた、テ-プが舞い落ち花束の花びらが
海面を漂っていた。
人波みが町の方向へと動いても、私と友は立ち竦んだまま遠ざかる船を
追っていた、昭和がきらびやかな彩を見せる或る年の春のことだった。
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小さな田舎町の駅舎には大勢の人波が溢れて、それはプラットホ-ムに
まで 溢れていた、集団就職の高校生達の門出のひとこまだった。
その中に、がっちりとしたひとりの若者の姿が混じっていた、
再起をかけて大阪へと向かう私の後輩の姿だった。
粗雑なボストンバックひとつ肩に掛けた男は、駅構内へ視線を這わせて
何かを探していた、
人ごみから少し離れた柱の陰に30半ばの人妻風の女性が佇んでいた、
人目をはばかる様に身を潜めていた。
目ざとく見つけた男は、大またで彼女の傍へ急いだ、
かがみこんで何事か言葉を交わしている、女の顔が揺れた、泣いていた。
列車の到着時間を知らせるアナウンスが流れた、ふたりの顔が柱の陰に
少しだけ隠れた、切ない別れの時間がそこに来ていた。
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恋人達の別れほど、事情ある人間達の別離ほど切ないものはない、
引き裂かれる愛、叶わぬ恋の別れ道、恋は、愛は、何時の世も悲しさを
伴う。
そんな恋人達を思い出すと我が身の思い出と重なって、レイ・チャ-ルス
の歌が流れてくる、日本人に永久に愛されるアメリカの偉大な歌手である。
黒人の盲目の歌手は、人の心を鷲づかみにして離さない、私さえ嵌ってしまう
エンターティーナ-、メロディ-といい歌詞といい、脱帽である。