肌寒い雨がフロントガラスを叩く、高速道は南進の車列はわずかだった、
かえって今日の悲しみが胸に蘇える、故郷のセレモニホ-ルへ向う。
高速道一人旅、友との別離に向う旅、降る雨の寂しさに似て山並みの
緑が沈んで見えた。
北原白秋 山田耕筰 ♪この道が 頭に浮かぶ、何故だろうと自問するも
流れる歌に身を任せた、今日の日の想いを表すように切なくてやりきれない。
♪この道はいつか来た道
ああそうだよ
あかしやの花が咲いてる
めったに浮かばない歌である、ほとんど唄ったことのない歌である、
我が胸の切なさが自然にこの歌を呼び込んでいる。不思議だな ?
憎らしいほど猛々しかった友だった、おとなしかった私には苦手なほどの
同級生だった、人格を貶めるほどのあだ名をつけられて頭を抱えた事もある。
しかし、人生の不思議が此処にある、小さい頃に苛められた三つ上の先輩に
いつか敵討ちをしたい、小柄で非力だった男が選んだ道が空手だった。
人より倍の稽古をして、同じ出発の仲間よりも早く上達した男は、その邪心が
いつの間にか消えていることに気がついた。
彼らの力、彼らの実力を当に上回っていることに気がつくと復讐心や怨念が自然
に消えていたのである、所詮自分の敵ではない、いつでも勝てる、その帰結が
平常心に戻ることでもあった。
「許す」と言うことは相手より上位にいる事、取るに取らないことだったことを
自覚することでもあった。
その復讐心は心の中に沈殿して無意識の内に消えていた、相手に対する哀れみの
芽生えだった。
伴侶の人間性が人生を左右する、以降の交友の中で絆が深まっていく、ともに手を
携えるところに信頼関係が構築されて行った、友情の進化である。
かけがえのない友情ほど人生を有意義にするものはない。
車は目当てのインタ-に滑り込んだ、セレモニ-Hはそれから20分の距離だった、
住職の読経が始まったばかりだった、同級生10名が中ほどの列に居た。
♪ この道(北原白秋・詞、山田耕筰・曲)森昌子