ひとめぼれ
その出会いは鮮烈だった、
秋の気配が漂い始めたころ、校庭の樹々が
ひとひらふたひらと枯葉を落とし始めていた。
午後の授業を終えた全校生徒は校庭の掃除に取り
かかっていた。
この物語の主人公、園芸科のA は、普通科と
園芸科を繋ぐ渡り廊下に差し掛かっていた。
運命の出逢いとはこんな普通の日常に現れる、
ある日突然という奴である ?
Aの視線の先、左側普通科校舎の自転車置き場に
2人の女学生がほうきを持ってゴミを拾っていた。
かがんで、ちり取を持つ女学生とほうきを持って
立っている女学生、
その姿はまるで日活純愛映画の一コマを思わせる
ように柔らかな光に包まれていた。
セシルカットの髪型の初めて見る女学生だった、
1年生の清楚さを漂わせていた。
Aは、顔が一瞬火照る程の衝撃を受けた !
それが一目惚れだという事はおぼろげに分かった。
A は、同じ園芸科の番長B に、その足で伝えた !
「よし分かった! すぐ調べてやる ?」
彼の情報網は凄かった、
翌る日の和田町夏柑畑の実習時間に朗報は届いた。
「おおい! A よ! わかったよ !!」
はるか向こうの樹々の間からB が叫んでいた !
女生徒の名前と住所が分かったというのである。
このB は、他の女の子とは、冷静に話せるのだが、
自分が惚れた女生徒にだけはからっきし弱かった。
男とは、不思議なものよ、 面白い ?
嬉しさの中の焦燥感 ?
卒業を心待ちしていたのにこうなると皮肉なものだ、
卒業が恨めしくなる、来なければ良いがと思った。
人間の心理とは不思議なものである ?
早速ラブレターを書く、
何度も何度も書き直して、宛名を確認してポストに
投函した、しかし、待ち焦がれた返事は来なかった。
それから随分歳月を数えた10 年後、A の元に後輩C が
やって来た時・・・
A は、C から思いもよらぬ懺悔を聞く事になる ?
恐縮してC は、「先輩、申し訳ありません !」
一生懸命頭を抱えて知恵を絞って書いたラブレターは
彼女に惚れていた2級下の男子生徒と悪友たちに彼女
のカバンから抜き取られていた。
「おいおい!どうしてくれる ?」と言ったものの ?
10 年の歳月は余りにも長い、もうすでに遅しである。
「馬鹿め !」 と笑って許したことは言うまでもない。
初恋! ひとめぼれ !
男にとって人生に一度、有れば言うことはない !
それは男の勲章だと思って良い。( 負け惜しみか ?)
セシルカットの可愛い娘 ! う~ん 女学生 !
ヒマラヤ杉のお姫様 初恋否失恋 に 乾杯 !?
初恋 村下孝蔵
好きだよと言えずに 初恋は
・・・
放課後の校庭を 走る君がいた