敗戦の傷跡は私の村にも大きな影を落としていた、
半農半漁の貧しい村は更に困窮のどん底に喘いでいた。
♪ リンゴの歌 ♪ 酒は涙か溜息か ♪ 越後獅子の歌
打ちひしがれた国民はラジオから流れ出る歌に耳を傾けた。
歳の離れた姉のいる私も、姉達を通じて歌謡曲に触れていた。
独特の節回し、哀愁漂う 唄声が胸に染み込んできた、
菅原都々子 ♪ 江ノ島悲歌(エレジ-) ♪ 連絡船の歌
悲しみを胸いっぱいに、不幸をひとりで背負ったかのように
私は、彼女の歌を聴いていた。
どんな女性なんだろう ?
ラジオから流れる菅原都々子の歌に子供なりに気になっていた。
大人になってから、彼女の歌に深い意味合いがあることを知った、
それにしても見事な情感の歌ではないか !
子供心に聴かされた流行歌は、幾つになっても消えうせない、
そのメロディ-、歌詞はひとつの情景となって形作られて行く。
江ノ島の名前は、子供心に胸深く刻み込まれていった。
♪ 江ノ島悲歌 (エレジ-)
作詞 大高ひさを
作曲 倉若晴生
歌 菅原都々子
♪ 恋の片瀬の 浜ちどり
泣けば未練の ますものを
今宵なげきの 桟橋の
月にくずれる わが影よ