夜の酒場に泣く花は肩を落として来る女だけではない、
本当の泣きたい花は働く女の胸の中にこそある、
港町に吹く木枯らしはそんな女の心を濡らして吹いた。
年の頃30半ば女は馴染みのバ-に務めるようになった、
明るい女性だったが、ひとりで来るようになると次第に
ある陰りを見せるようになった。
その町では何不自由のない家柄に嫁いで一児をもうけ
たが、姑との軋轢に我慢の尾が切れた子供は置いていけ。
冷たい仕打ちに泣いた、後ろ髪引かれるわが子との別れ
は、かろうじて港町に我が身を置くことで耐えた。
「マスタ-!」 その目から涙がこぼれた !
子を思う母の神経はちぢに乱れて次第に酒量が増えて
お決まり・・男が出来た、つまらない男だった。
悲しい酔いだった、カウンタ-に顔を埋めて涙を流した、
言葉に出さぬ、わが子への想い !
しばらく顔が見えなくなった、同僚のBちゃんが来た、
「病院に入ったのよ、〇〇(精神)病院に・・・」
季節は、蜜柑の収穫が終わって年の暮れ、正月の準備
が始まろうとしていた、
あの母と子の人生は、何の道、どんな道、黄昏に向かう
男には、助けてやれなかった後悔が胸から消えない。
ごめんよ!
冠二郎が港町のフェリ-乗り場から九州を眺めて唄う !
望郷いとし子よ ! 女が縋る 男歌 !
♪ 酒場 冠 二郎