なさぬ仲の2人だった。
仕事のため県都からこの港町に来ていた30代の男、
如才のない会社員に地元の生娘が惚れたという図式である。
見ていても女が男に傾斜している、初めはまんざらでもない
風だったが女の一途に男がたじたじするようになった。
私はあくまでも黒子、でしゃばることは許されない。
こうなるとふたりの性格に方向が決まっていく、女の情念が
勝ったのである、
程なく男の家庭が崩壊した妻は泣きの涙で県都へ戻って行った。
風雪10年、城山の麓の商店街を中年の男女が商店の軒先を
覗きながらにこやかに談笑しながら歩いていた。
(どこか見覚えがあるな ?)
私はふっと立ち止まって男女の後ろ姿を追った、あの時の不倫に
陥った2人のカップルだった、と云うことは夫婦になったのか ?
乾いた晩秋のアスファルト道にダンプが残した土埃が舞った !
肩を落として幼子と夫の元を去ったあの日の妻の慟哭を、思った。
男女の仲はあや取りに似て、一瞬の間に手元から落ちる。
あの時、流行った流行歌が脳裏に浮かんできた、
知りすぎたのね ロス・インディオス
木枯らしの舞う港町の裏通りは幾多の男女の落涙に沈んだ !?