君と紡いだラブストーリー
その冬一番の寒気が港町を襲った、
薄汚い裏町にその小さなアパートは在った。
19と21貧乏を絵に描いた2人は肩寄せ合って
明日を夢見ていた。
夕方から小雪が舞ってラジオが積雪を予告した。
「ただ今、小雪、帰ったよ !」
気象台が積雪注意報を出したので残業はやめに
なった、
「お帰りなさい! 先に風呂に行く ?」
小雪は夕飯のおかず肉じゃがの準備をしていた。
狭い畳 四畳半、二畳の台所、トイレは3世帯の
共同で風呂はなかった。
玄関先で作業着にまとわり付いた雪をはたきながら
順吉は小雪に声を掛けた。
「じゃあ先にひと風呂浴びて来るわ !」
神社下の裏道に面して、古い長屋と安アパート
が建ち並ぶ裏町、まだ少年の面影が残る2人は、
庶民の雑踏に生活の糧を得ていた。
貧乏ながらも2人の慎ましやかな生活は長くは
続かなかった、
勤め先の倒産、小雪の流産、ふたりに祝福の春は
来なかった。
「ひと旗上げて迎えに帰るから・・」
順吉はそう告げて東京へ向った。
それが純愛、順吉と小雪の別れになった、
必死に働いた順吉の優しさに小雪は報いることが
出来なかった。
昼夜働いた小雪は無理が祟って、翌年の晩秋、小高い
丘の上の病院で息を引き取った。
「小雪 !」
順吉の目からとめどもなく涙が落ちた、♪ 神田川が
かぐや姫の絶唱が川面の鴨の背に揺られて響いた。
神田川 かぐや姫
世知辛い世の中で必死に生きている若者たちへ
捧げます。
苦労に負けたらいけんよ、いつの日か幸せが
2人の上に微笑む・・・
( 順吉と小雪の分まで幸せになってよ !)
その日を信じて !?
追慕
順吉と小雪
ふたりは一度だけ町の映画館に足を運んだことがある、
苦労の中で小雪が懐かしんだ映画だった。
日活映画 絶唱 (1966)
監督 西河克己
園田順吉 舟木一夫
小雪 和泉雅子