「ちぇっ! 雪が降ってきやがった」
暖房の効いたスナックから一歩外へ出ると
路面は白一色、どんよりと曇った空から粉雪が
落ちて来た。
ふんわり ふんわり と
行く年を惜しむように、風に舞っている。
(今年も終わりだな!)
男は、オーバーの襟を立てて両の手で顔を挟んだ。
思えば、故郷におふくろ一人残して旅に出た、
あの日の津軽の海は、白い牙を剥いて凍れた。
一人息子の無事を祈って、母は袖に涙を隠した、
「いつでも帰って来い !」
あれから10年、おふくろさんは80を越えた、
地元の老人ホームに入って息子の無事を祈っている。
親戚の虎爺が手紙を寄こした、
「一度帰って来い、今ならおふくろ話が出来る・・」
恋女房のセツが始めての子を身ごもっている、
「あんた、お母さんに逢っておいでよ、元気な内に」
歳の離れた夫婦に念願の子供が生まれる、
英二は、おふくろさんに逢いに行く事に決めた。
津軽は、北の果て、砕ける白波に夢を追ったところ、
おふくろさんの節くれだったか細い指が泣いた町。
北へ帰ろう、 「津軽へ帰りたい・・・」
私の家に来て英二はしみじみ語った、
男 英二の目にうっすらと涙がにじんだ、
北国の男は辛抱づよい・・・
風雪10年 英二にもやっと春が訪れた。
セツの献身が道に迷った英二をひきとめた、
セツの大きくなった腹を見て英二の心が震えた。
「セツ! 堪えてな、次は必ず親子三人で帰るから」
セツの目から大粒の涙が流れた。